児童虐待~年々増加の一途を辿る深刻な問題

平成29年8月17日、厚生労働省が、平成28年度の児童虐待相談件数および子ども虐待による死亡事例などの検証結果を速報値として公表しました。平成28年度中に、全国210か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は122,578件(速報値)で、過去最多。児童虐待は、ますます深刻化しています。家庭の形も多様化している中、保育士としてできることは何なのか、子ども達のために少しでも考えていかなければなりません。また、保育士試験では、児童虐待の定義について、厚生労働省が発表したデータなどをもとに、児童虐待の現状についても問われる問題が出題されています。
平成28年度 前期【児童家庭福祉】問8

次の文は、「児童虐待の防止等に関する法律」における「目的」の一部である。( A )~( C )にあてはまる語句の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

児童虐待が児童の( A )を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ、 児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び( B )その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び( C )の支援のための措置等を定めることにより、 児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする。

(組み合わせ)
   A    B    C
1  成長   治療   発達
2  成長   保護   自立
3  人権   治療   発達
4  人権   早期発見 自立
5  成長   早期発見 発達

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平成28年度 後期【児童家庭福祉】問14

問14
次の文は、児童虐待防止についての記述である。不適切な記述を一つ選びなさい。

1.平成26 年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数は約8万9千件である。
2.「子ども虐待対応の手引き」(平成25 年:厚生労働省)による児童虐待の分類は、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待の3種類となっている。
3.平成26 年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数の中で、最も割合が多いものは心理的虐待、次いで身体的虐待となっている。
4.児童虐待の防止のための施策として、乳児家庭全戸訪問事業や養育支援訪問事業などが位置付けられている。
5.要保護児童対策地域協議会は、要保護児童の適切な保護を図るため、関係機関等により構成され、要保護児童及びその保護者に関する情報の交換や支援内容の協議を行う。

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児童虐待の定義

児童虐待に関する法律は、平成12年11月20日に施行されました。正しい法律名は「児童虐待の防止等に関する法律」です。平成2年度には児童虐待相談対応件数は1,101件だったのに対し、平成11年度では11,631件と約10倍に増え、年々増加しているという問題を抱えていました。

この法律が出来る以前にも、児童福祉法(昭和22年)や「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」(平成9年)、「児童相談所運営指針について」(平成2年)、「児童虐待に関し緊急に対応すべき事項について」(平成10年)、「子ども虐待対応の手引きについて」(平成11年)の法律や通知された文書などによって、児童虐待の早期発見や予防などに取り組まれて来たのですが、平成12年度には法律として確立されたものになったわけです。

第2条:虐待の定義

「児童虐待の防止等に関する法律」の第2条には虐待の定義があります。
この法律において「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。以下同じ。)に、ついて次に掲げる行為を行うことをいう。

まず、ここで大切なことは、法律上では、保護者がその監護する児童に対して行う行為を児童虐待と呼ぶということです。
ですから、保育士や、幼稚園教諭が児童に対して行う行為や、監護しない児童に対して行う行為は、法律上では児童虐待とは言いません。誤った表現の仕方をしないように気をつけましょう。

では児童虐待の行為とはどのようなものでしょうか。

児童虐待の行為

1.身体的虐待
●児童の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること。
例:殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束するなど。
2.性的虐待
●児童にわいせつな行為をすること又は児童にわいせつな行為をさせること。
例:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にするなど。
3.ネグレクト
●児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
例:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど。
4.心理的虐待
●児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える行動を行うこと。
例:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う など。

身体にアザや傷があるなど、身体に現れやすい児童虐待や、子どもの外見が汚れているなどのネグレクトは発見の手立てにもなりますが、心理的虐待といった目に見えないものは、周りの発見も遅れがちになりやすく、気づいた時には、子どもに深い傷を与えてしまっていることが少なくないのです。

児童虐待の現状は

厚生労働省が発表した平成28年度の児童虐待相談件数および子ども虐待による死亡事例などの検証結果より、児童虐待の現状を考えます。

児童虐待相談件数

まず初めに頭に入れておきたいことは、児童相談所における児童虐待相談件数というのは、実際に虐待や虐待のおそれがあることに周囲が気づき、相談にまで至ったケースだということで、現状は発見に至らず水面下で虐待されている子どもの数がとても多いということです。

児童虐待というのは決して特別なことではなく、勤めている保育園や将来勤める保育園に通う子ども達にも行われている可能性が十分あるということです。保育士はそのような危機感を常に持って、子どもと接していかなければなりません。

厚生労働省が発表した平成28年度、全国の児童相談所における児童虐待相談の件数は122,578件(速報値)でした。
過去五年間にさかのぼると平成23年度59,919件、平成24年度66,701件、平成25年度73,802件、平成26年度88,931件、平成27年度103,286件で、相談件数がうなぎ上りになっています。

児童虐待の件数も増加していますが、周囲に、児童虐待に対する認識が広く浸透し、相談に多く繋がっていることも一因かもしれません。

心理的虐待が増える現状

厚生労働省は、平成28年度の相談件数の主な増加要因として、心理的虐待に関わる相談件数の増加や警察等からの通告の増加を挙げています。夫婦間のDVを子どもに見せることは当然心理的虐待になるわけですが、この夫婦間のDVの通報することを促すポスターなども最近はよく見かけるようになりました。このような心理的虐待の通報が増加したようです。

実際、平成28年度の児童虐待の相談件数で最も多かったのが心理的虐待。次いで身体的虐待という結果でした。以前は身体的虐待の件数が最多でしたが、2年前(平成26年度)より、心理的虐待の件数と逆転しています。

児童相談所全国共通ダイヤル(189)を知っていますか

平成27年7月1日から3桁になったこのダイヤルは、以前は長い番号でしたが、児童虐待を189(イチハヤク)伝えるというわかりやすい番号になりました。児童相談所全国共通ダイヤルにかけると、発信した電話の市内局番等から当該地域を特定し、管轄の児童相談所に電話を転送されるというしくみになっています。

確実に児童虐待をしたという証拠がなくても、児童虐待かもしれないというおそれの時点でもダイヤルすることができます。

「児童虐待の防止等に関する法律」5条には、児童福祉施設の職員は児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならいという記載がされています。そのような立場である保育士としても積極的に利用していきたいですね。



児童虐待が無くなることは決してないでしょう。しかし保育士としての気づきや、日ごろの保護者に対する支援や接し方などは、確実に児童虐待を減らすことに繋がります。子どもは体も小さく、心も発達の途中。児童虐待は、子どもの心に一生涯にわたり大きな傷を与えます。自分には何も出来ないなどと諦めず、身近なところで関わっていきたいですね。