倉橋惣三~大正、昭和初期に活躍した児童心理学者

保育・幼児教育において、重要人物である倉橋惣三。保育者では名前を知らない人はおそらくいない程の人物です。当然保育士を目指す方も、教科書等で誘導保育論や「育ての心」などを結びつけて覚えている方も多いかと思います。実際にどのような思想の持ち主だったのか、より詳しく倉橋惣三についてまとめながら、考えていきましょう。
平成27年度【保育原理】問4

次の文のうち、倉橋惣三の著作『育ての心』の一部として適切な記述を○、不適切 な記述を×とした場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

子どもの心もちは、極めてかすかに、極めて短い。濃い心もち、久しい心もちは、誰 でも見落とさない。かすかにして短き心もちを見落とさない人だけが、子どもと?にいる人である。
すべての児童は、愛とまことによって結ばれ、よい国民として人類の平和と文化に貢献するように、みちびかれる。
教育はお互いである。それも知識を持てるものが、知識を持たぬものを教えてゆく意味では、或いは一方が与えるだけである。 しかし、人が人に触れてゆく意味では、両方が、与えもし与えられもする。
子どもを愛するがいい。子どもの遊びを、楽しみを、その好ましい本能を、好意をもって見守るのだ。

(組み合わせ)
  A B C D
1 〇 〇 × ×
2 〇 × 〇 ×
3 〇 × × 〇
4 × 〇 〇 ×
5 × × 〇 〇

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フレーベルの思想を受けた倉橋惣三

倉橋惣三の生い立ち

倉橋惣三(1882~1955)静岡県出身。肩書は教育者、児童教育の実践家、児童心理学者など。東京帝国大学文科大学哲学科卒業。同大学院児童心理学終了。東京女子高等師範学校(お茶の水女子大)講師、教授を経て、東京女子高等師範学校付属幼稚園主事を勤めた人物です。

幼稚園を創設したドイツの教育家、フレーベルは、現在の保育所や幼稚園で行われているような、子どもの生活を遊び中心とする幼児教育の基礎を作った人物ですが、そのフレーベルの影響を大きく受けた思想の持ち主のため、「日本のフレーベル」とも言われています。

フレーベルが提唱した保育

倉橋惣三は明治15年に生まれた人物です。明治時代には既に、一見フレーベルの思想に基づくと思われる保育・幼児教育が行われていました。
フレーベルは20種類の「恩物」という遊具を使った保育をすることを提唱したのですが、その恩物を使った保育・幼児教育が明治時代にも取り入れられていたのです。

しかし、実際にはフレーベルが提唱した遊び中心の方法とは違い、恩物が保育そのものになってしまうような、内容よりも形を重視する、形式主義の誤った方法で行われていました。フレーベルが提唱したものを形だけ取り入れて、本質的なものの理解がされなかったのでしょう。

フレーベルが考えた恩物とは、あくまでも子どもが自主的な遊びを通して自然のしくみを理解したり、発見したり、想像力を養ったりするための遊具でした。その思想をしっかりと受け継ぎ、遊び中心の方法を主張したのが倉橋惣三なのです。

倉橋惣三が唱えた「誘導保育」とは

主な著書には『育ての心』『幼稚園真諦』『幼稚園雑草』『子供讃歌』などがあります。 保育士試験では、著書を問われる問題も出題されますので覚えておきましょう。また、育ての心の冒頭文などの出題も過去にありました。

「育ての心」とは?

『育ての心』(1936年)
冒頭の一節に、「自ら育つものを育たせようとする心 それが育ての心である 世の中にこんな楽しい心があろうか(序文冒頭文)」

この『育ての心』では、子どもを「自ら育つもの」と表現し、その自ら育つ子どもに信頼を寄せ、自発性を信じ、保育をしてしこうという思想です。そしてその思想を表しているものに、倉橋惣三が提唱した誘導保育があります。彼は、子どもが自ら遊びたい、やりたい、知りたいという気持ちになる自発性を大切にしました。

自発的な遊び・伸びる力

倉橋惣三が言う自発的な遊びというのは、ただやみくもに子どもを自由にさせておけばいいということではありません。誘導保育は、子どもの自発的な伸びる力がより望ましい方向に行くように、遊具や環境などで様々な刺激を与えて、子どもを誘導していく保育なのです。

自由な保育ほど難しいものはないのではないでしょうか。誘導保育を目指して自由な保育をするなら、人的環境、物的環境共に、子どもにとって適切な環境を設定して、子どもが自らその環境に興味を持ち、その結果、望ましい方向に成長、発達するように誘導していかなければなりません。

例えば、一見、園庭で子ども達が自由に遊んでいるように見えても、そこには保育者が意図して配置した遊具や自然物などがあり、その後戻った保育室には、園庭での遊びを振り返ることができるような絵本がさりげなく配置されているといった具合です。何の環境設定せずに、さぁ遊びなさいと子どもを園庭に放り出す放任保育とは違うのです。

保育所保育指針の中に出てくる「自発性」

倉橋惣三が大切にした子どもの自発性。自発性を大切にした保育は、現在の『保育所保育指針』の文面にも度重なり掲載されています。いくつか紹介します。

『保育所保育指針』

第2章 子どもの発達 1乳幼児期の発達の特性
(2)…そして、身近な環境(人、自然、事物、出来事など)に興味や関心を持ち、自発的に働きかけるなど、次第に自我が芽生える。
第2章 子どもの発達 2発達過程
(3)おおむね1歳3か月から2歳未満
…身近な人や身の周りの物に自発的に働きかけていく。
第3章 保育の内容 2保育の実施上の留意事項
(3)3歳未満児の保育に関わる配慮事項
オ 情緒の安定を図りながら、子どもの自発的な活動を促していくこと。

子どもの自発性が現在の保育でもいかに重要視されているのか、わかられたかと思います。自発的というワードの他にも、自主性、自分から関わり、自立心などの関連した言葉もよく出ています。

上記は、平成20年告示の保育所保育指針についてですが、平成29年告示の保育所保育指針は平成30年4月1日から施行されますので、これ以後の保育士試験は改訂された保育所保育指針から出題されることが予想されますので、併せて見ておきましょう。

平成29年告示の保育所保育指針も子どもの自発性を大切にした保育が明記されています。



倉橋惣三の保育・幼児教育思想は、現在の保育や幼児教育にも活きています。子どもに教え込む保育ではなく、子どもの自発性を尊重する保育は、保育士も子どももいきいきと活動することが出来ますね。先人達の思想が、現在の保育にどのように繋がっているのか考えてみることはとても興味深く、保育士試験対策にも役に立つことでしょう。