ジャン・ピアジェ~スイスの心理学者|保育の心理学

保育の心理学のみならず心理学の世界に頻出する人物のうちの1人、ジャン・ピアジェ。ピアジェが唱えた発達段階は保育士試験に良く出てきます。これら聞きなれない言葉の羅列を意味もわからず覚えようとしても、すっと頭に入っていかないことが多いですね。その人物の背景から始まり、どのようなことをしたのかを整理しておくと、印象も強まり記憶しやすいですよ。今回は、ジャン・ピアジェにクローズアップします。
平成29年度 前期 【保育の心理学】問7

次の文は、学童期の知的発達についての記述である。次の下線部(a)~(d)に 該当する用語を【語群】から選択した場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

ピアジェ(Piaget, J.)は、子どもの知的発達のなかで、(a)数、重さ、体積などの保 存が獲得される時期を示した。例えば、(b)子どもが見ている前で、球状の粘土をソーセー ジ形などに変える実験を行った。 この時期には様々な思考活動に可逆性や相補性が加わり、(c)物の分類、順序づけに 必要な操作が発達し、次に、(d)抽象的・論理的な操作が可能となる時期へと向かう。

【語群】
ア,形式的操作期 | イ,具体的操作期 | ウ,密度の保存 | エ,重さの保存
オ,群性体 | カ,同化

(組み合わせ)
  a b c d
1 ア ウ カ イ
2 ア エ オ イ
3 ア エ カ イ
4 イ ウ カ ア
5 イ エ オ ア

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生物学に興味を持ったジャン・ピアジェ

ジャン・ピアジェ(1896~1980)はスイスのヌーシャテルに生まれた児童心理学者・発達心理学者です。20世紀で最も影響力の大きかった心理学者、「20世紀の発達心理学者の父」であると言われているほど、心理学と言えばピアジェは欠かせない人物です。

彼は幼い頃から生物学に興味があり、10歳という幼さにして、白スズメの観察についての論文を発表、また、軟体動物についての論文を発表し、大学の動物学科を卒業しました。1918年には動物学で博士号を取得。卒業後は心理学に関心を持ち、いくつかの大学で学んだそう。日本でいう昭和55年までこの世にいた、近代を生きた人物だったのです。

ピアジェの発達理論「発生的認識論とは?」

ピアジェは、子どもの思考の発達段階を5つに分けました。生まれたばかりのまだ何も知らない赤ちゃんが、周りの様々な刺激や情報を取り入れ成長していく過程で、どのようにそれを整理して取り入れていくのか、段階として表したのが次に示す、発生的認識論です。思考発達段階説とも言われています。

<発生的認識論>

  • 感覚運動的段階(出生から1歳半又は2歳まで)
  • 象徴的思考段階(1歳半又は2歳から4歳まで)
  • 直観的思考段階(4歳から7、8歳まで)
  • 具体的操作段階(7、8歳から11、12歳まで)
  • 形式的操作段階(11、12歳以降)

この5つの段階について、具体的に見て行きましょう。

感覚運動的段階(出生から1歳半又は2歳まで)

ピアジェはこの感覚運動的段階をさらに6つに分けています。

第1期(生後1か月位まで)~第3期(4~9か月)

第1期(生後1か月位まで) 生まれたばかりの赤ちゃんは原始反射によって生きています。吸てつ反射、モロー反射、把握反射などは、赤ちゃんの意志とは無関係に行われる反射ですよね。生まれながらに持っているこの反射を使って、赤ちゃんは外界に無意識に働きかけています。この反射活動がシェマになります。シェマとは、ピアジェの理論の中ではよく出てくる言葉であり、思考の枠組み、概念のようなものです。

第2期(1~4か月) 2つ以上のシェマの協応が見られるようになります。シェマの協応とは、例えば目と手の協応、目のシェマ(見るという概念)と手のシェマ(掴むという概念)が協応し、見て掴むシェマという新たなシェマが出来上がることです。このようにシェマとシェマと組み合わせて新しいシェマを作り認知を広げていきます。感覚的にたまたま行ったことを、もう一度やろうと繰り返し行うのもこの時期で、自分の身体だけに関係した反応のことを第一次循環反応といいます。

第3期(4~9か月) 第二次循環反応が形成されます。自分の存在に気付いた赤ちゃんは、外の対象物に興味を持ちます。外の物に繰り返し働きかける反応のことを第二次循環反応といいます。例えば、ガラガラをたまたま掴んで振り、音が鳴ったことで、また鳴らそうと手を振る動作を繰り返すというような反応のことをいいます。

第4期(9~12か月)~第6期(18か月から2歳)

第4期(9~12か月) 動作がさらに複雑になって行き、シェマを組み合わせることが出来るようになります。 また、対象の永続性が成立。隠したものが存在し続けることに気がつき始めます。いないいないばぁが楽しめるようになるのもこの時期です。「いないいない」と顔を隠しても、その後ろにお母さんが存在することを理解するようになるのです。

第5期(12~18か月) 目的を達成するために、様々な手段を試してみる実験的な活動を行う、第3次循環反応が形成されます。例えば積み木を叩き合わせて音を鳴らした後、柔らかい物を叩き合わせて音を鳴らして違いを感じるなど、動作が違うと結果が違うことを段々に理解していきます。 このような動作を繰り返すうちに、自分の動作と結果との相関関係を理解するようになります。

第6期(18か月から2歳) 頭で考える表象機能が成立します。ピアジェは、この表象機能の成立を、感覚運動期の知能の完成と考えました。

象徴的思考段階(1歳半又は2歳から4歳まで)

表象機能が明確に表れます。延滞模倣、象徴遊び(ごっこ遊び)などもこの時期の特徴です。延滞模倣とは、目の前に手本がなくても、一度見たり聞いたりした経験をイメージとして頭に入れておいて、それを再現(模倣)することです。これが出来るようになると見立て遊びやごっこ遊びが可能に。例えば葉っぱをお皿に見立てたり、泥水をお茶に見立てて遊んだりするようになります。

直観的思考段階(4歳から7、8歳まで)

概念化が進んで、事物を分類したり関連づけたりできるようになります。しかしまだ論理的思考は出来ず、直観的思考に頼っているため、例えば大きなケーキをたくさん切り分けると切り分けた方が多くなったと錯覚したりしてしまいます。この時期は自己中心性が特徴的です。

具体的操作段階(7、8歳から11、12歳まで)

この時期に入ると、論理的な思考や推測が出来るようになってきます。脱中心化の時期であり、前段階ではわからなかった、形が変わっても量は同じ、というような概念が理解できるようになります。空間や時間、速さなどの理解も進んでいきます。

形式的操作段階(11、12歳以降)

仮定の話を考えられるようになるなど、抽象的なものを扱えるようになります。内容が、現実か仮定かどうかにかかわらず、論理的・形式的に考えるようになるのです。



赤ちゃんや子どもの行動は、どの時期にも1つとして意味が無いものはないことがよくわかるのではないでしょうか。遊びを通した行動を通じて、子どもは絶えず成長しています。例えば保育の中で、自己中心的な考えを主張している3歳児の壁を感じたとしても、発達段階を背景に知っておくことは、大変有益だと言えるでしょう。発達段階を学んでいなければ、自己中心性はただのわがままだと捉えてしまうかもしれません。しかし、知っていれば発達段階の重要な一部分なのだとわかりますね。ピアジェは保育士試験にも頻出の人物ですので、覚えておきましょう。